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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「吉次どの。毎日、よう退屈なさらぬのう」

彼に、社家の一間を貸し与えてから、もう半月の余は経っていた。

蝉の声を手枕に、吉次は一人ぼッち、横になっていたが、

「ああ、うたた寝をした」

と、伸びをして起き上がり、

「お察しの通り、そろそろ退屈いたしました。けれど、人間稀には、退屈という事をしてみるのも、悪くありませんな。お山へ泊っていて、考えてみますと、常日頃、てまえどものような商人は、余りに退屈を忘れすぎておりましたよ。寝ても醒めても、賭け事ばかり考えましてな」

「はははは。ここへ来ては、金があっても仕方がありませんからな」

「怖くなりました。ぼつぼつ山からお暇を申さなければ」

「怖いとは、何を思い出されたか」

「今仰っしゃったように、余りに金の事や、俗気から離れますと、菩提心とやらに襲われまして、せっかく持前のあく気が、なくなり過ぎますんで。――それがなくなると、商人魂が弱まりますよ」

「まあ、ごゆるりなさい。そのうちに、鞍馬の祭りもありますから」

「そうそう、あれは幾日でしたっけな」

「この月の二十日ですが」

「ではもう明後日で」

「一年に一度の人出で、近郷の衆はおろか、都からも、参詣人が夥しゅう見える」