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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「……ふうむ」

「この牛若が、お訪ねして行ったら、母上のお身がお困りになることは、わしだってよく知っているから」

「……そうですか。……いや、それならまアよかったけれど」

それさえいけないとは、吉次にも云いきれなかった。しかし、話を聞いているだけでも、吉次は胆が縮まった。

「牛若さま。ではもうそれで、母御様とお会いなされたような気がしたでしょう。もうお気持はすんだでしょ」

「なぜ」

「でもお住居を見れば」

「すむものか!」

唇をかんで、きっと、吉次を睨んだのである。――吉次はびくとした。

少年の眼とも思われない。燃える火の如きものがあった。しかも、そのひとみの炎は、いっぱいな涙にうるんでいたのだった。

「……だがね、吉次」

牛若は、ほろほろと、次には俯向いて、膝へ涙をこぼしていた。

「わしはあきらめて来たよ。おまえを苦しませても悪い。おまえはわしを山から誘い出すために、つい嘘を云ってしまったのだろう――どう考えても、今の場合では、わしと母上とはお目にかかれるわけもない。……また、それが母上のご不幸になることは知れきっている」

「そ、それまで、牛若さまには、お考えになっておられましたか」