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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「とうとう来たな。――吉次、そちにも骨折りであった。忘れはおかぬ」

と、いつになく頭を下げて礼を云った。

今日までの間にない事だった。吉次は、かえってあわて気味に、

「ど、どう致しまして。そう仰っしゃられては、こっちの不行届きは、どうお詫びしていいか分りません」

「いや、礼は礼としていう、恩は恩として長く忘れまい。――けれど吉次」

「はい」

「そちは二度ばかり、人手をかりて、この源九郎を懲らそうとしたな。わしが余りそちの自由にならないし、そちも腹が立ってならないが、自分の手でするわけにゆかないので、宿場の賊の熊坂とかいう男をたのみ、わしの寝ごみを襲わせたり、また、山賊などを唆せて、わしを脅してみたりした」

「あっ、もし……九郎様。もう仰っしゃって下さいますな。吉次は、慚愧いたしております。……熊坂長範などをけしかけたのはまったくてまえの悪戯でございますが、もう、あなた様には、どう頤で使われても、吉次は腹も立たなくなりました」

「立てたら骨折り損になるからなあ」

「お言葉どおりです」

「が、吉次。平泉へ行き着いても、秀衡には、何もいわないでくれ。わしは早く、もう五、六年ほど一ぺんに大人になりたい。