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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「では、わしから話すとするか」
藤九郎盛長は、少し遠慮がちに、こう断ってから、一同へ告げた。
「ゆうべさる場所で、政子どのの望みにまかせ、佐殿と密かにお会わせ申した。――その後で、佐殿から承った姫の考えとは、次のような仔細でござった。……お聞きください」
以下は――
藤九郎盛長が、政子と頼朝に代って、腹心の人々へ向って打明けた「嫁ぐ本心」なるものである。
* * *
自分が、あの縁談に、いやとかぶりを振ったら、父の時政は、嘘をいった事になる。向後、山木判官から、どう誹られても、武士らしい言を吐けない者になる。お苦しいに違いない。
それと、義母や義妹たちに対する父の苦衷もある。もっと、大きな理由には、目代の山木判官とは、当然、不和になり、ひいては何かと、うるさい風聞が京都へ伝わるであろう。
彼女はそういうが、より以上な理由としては、政子自身が一刻もはやく、頼朝のそばへ行きたい事だった。
彼女を知る人たちは、誰もみな彼女の聡明を挙げるが、彼女も恋をすれば闇夜をも忍んで配所の人へ通うだけの盲目にもなり情熱にも燃やされる女性ではあった。