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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

三

*     *     *

「叱っ……。人が来る」

盛長の話がちょうど終りかけた時である。見張の一名が、彼方の芒の中から手を振った。

三

「目代の家人だ。山木の郎党が付いてくる」

見張の者から、二度目の声が伝わると、

「なに、山木判官の家人が見えると?」

若人輩は、すぐ険しい目になって、太刀へ手を触れながら起ちかけた。

「起つな。――起っては先へ覚られる」

盛長も制し、宗時もあわてて共に制した。

「…………」

黙り合って、一同はまた、芒の中に蹲り合った。

夕風の渡る穂すすきの間から、彼方へ眼を送ると、なるほど、山のほうから降りて来る馬と人がある。

馬の上に揺られて来る顔は、夕雲に赤く映えて、その白い歯や無精髯まで明らかに見えた。

奈古谷寺の配所にいた僧の文覚である。その前後について来る武士は、目代の役人らしく、何か、馬上へ話しかけたりしている。

「はてな、何処へ?」

「旅へ立つらしい扮装だが」

宗時や盛長たちは、怪しみながら見まもっていた。その間に、彼方の野路を斜めに、馬と人は過ぎかけた。

――と思うと、馬上の文覚が、ふと此方を見た。馬の背からなので、屈んでいても、若人たちの首や背が眺められたものと見える。