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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二人して、廊の端まで、背なかを押して行った。

「ははは。いいじゃないか。はははは、よいではないか」

子どもに甘える気もちで、押されて行った時政は、独りぽっち、そこへ置かれると、気の弱いものが、ぽろりと、瞼からこぼれかけた。

――がすぐ、その眼は、御所之内に満ちている一族、近郷の諸侍などの、馬いきれ人いきれの上へ移った。何とたくさんな若い者がいることだろう。自分の持つ手兵、親類の子等、知己の子弟、伊豆には若者がわけて多い気がする。いや世の一般もその通りだろうが、その若い力の全体を何となく握っている老人というものも不思議に感じられる。――時政はまだ自身老人とは思っていないが、さりとてこの若い者の仲間ではない。いつか彼もそこを出て次の人生の事をしきりと考えるふうにはなっている。

「宗時、宗時」

突然、大声で呼んだ。総領のすがたを彼方の廊に見かけたからである。

細い雨の中を駈けて、宗時は、父のいる棟の階下まで来た。

「お召ですか」

「むむ」

と、時政はなぜか口を緘んでしまう。あたりを見ているのである。それから云った。

「韮山の西之窪へ百、山之木郷の南の丘の林へ八十、北の木無山の裏あたりへも五十ほど、日が暮れたら、早速に兵をかくして置け。