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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「来たな」

宗時は、先に起っていた。そしてそれへ来た歩哨の兵の言葉も聞かないうちに、

「土肥殿や仁田殿が見えたのではないか」

と、云った。

「そうです」

「これへご案内しろ」

待ちかねていたものとみえる。すぐ下からその人々の影が登って来た。土肥次郎実平である。

また、仁田四郎忠常である。藤九郎盛長も、天野遠景も一緒に来た。――が、皆、それとも分らないほど具足には蓑を着たり顔には黒い布を巻きつけていた。

「宗時殿か」

「おう、揃われたな」

「こちらはかねての手筈どおり、かく打揃うたが、宗時殿には、婚儀の席を外して、物々しい人数まで率き連れ、何でかような所へ伏せておらるるのか。……先刻、使いをうけて驚いたが、訊き合せている遑もないし、やむなく道を迂回って会いに来た」

この面々は、時政のさしずに依って動いてもいないし、時政が宗時にいいつけた事も知らないので、まったく不審にたえないもののようであった。

五

今夜の出兵は、自分の意思ではなく、父時政のさしずに依るものであると、宗時から事情を聞くと、一同はなおさら、

「何、北条殿の御意で、これに勢を伏せておらるるとか。――さては、われわれの謀みが、疾く先方に洩れているのではあるまいか」