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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
しかしよく考えてみると、それは頼朝が情熱に乏しいわけではなく、頼朝には、行家という叔父があったくらいな事しか少年の記憶にはないからであった。行家の追憶と、頼朝の回顧とには、その年齢のちがいと共に、当然、大きな差があった。
「この頃は、都においでですか。それとも、お国元ですか」
余り行家が黙っているので、頼朝は、そんな話題を出したりまた、
「ここにいては、まったく、世上の事は何も分りません。こよいは悠々、都の近状など、伺わせてください。……ま、湯浴みなどなされて、何の馳走もありませんが、お寛ぎの上で」
と、云った。
それも至ってお座なりの歓待にしか聞えなかった。行家は初めのうちは少し不足であったが、十四歳から伊豆にいる頼朝に、いきなり十七、八年ぶりに訪ねて来て、血縁の情を望んだ自分のほうが無理と覚って、
「いや。その前に」
と、彼も他人行儀に、改まって、用向きの口を切って、
「極く内密におはなししたいが、お召使の出入りなきよう、しばらく人を遠ざけていただけまいか」
「お易いことです」
頼朝は、起って、
「こちらならば、誰も入って参りません」
と、持仏堂へ案内した。