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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

四

「元よりだ」

「……ならば、ご安心ください。宗時には決する覚悟が持てます。私におまかせおき下さい」

そう云って、彼は帰った。悲壮な顔いろはして戻ったが取乱れた容子もない後ろ姿だった。頼朝は、縁ごしに見送っていたが、彼ひとりあればと思うほど、意を強くした。

四

その晩、行家は頼朝と共に、密かに北条家を訪れた。

館は清掃されていた。主客は奥ふかい室へかくれたまま、侍たちも遠く退けて、室外には、総領の宗時が見張っていた。

その後で、行家を主賓とした小宴がひらかれた。極めて内輪の者だけで。

夜も更け、話もくだけてから、

「どうですか。この際、いっその事、政子どのを佐殿に下されて、正式に結婚させては」

と、行家が叔父として、時政へ云い出した。

「異存はない。もはや時節もよかろうで」

と、時政は云った。

宗時は頼朝の面を見た。頼朝はふと眼を熱くして俯向いた。自分から申し出たい程の事だったし、恋人の父に、自分たちの恋が正式に認められたのも欣しかった。

行家が齎した以仁王の令旨の内容については、小宴の席では、頼朝も時政も、一言もふれなかった。

畏れ多いことでもあるし、またゆるがせに口にすべき性質のものではないからだった。