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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

世革めの真っ先に、討死せば、この老骨に花が咲くというもの……」

頼政は、そう真情を吐いて、宮のご決意をうごかし奉ったのであった。――ゆめ、令旨をいただこう為の巧言などではないことを、彼自身の心は神へさけんでいた。宮へそう申しあげた折、頼政は、その老骨をふるわせて泣いた。

新宮十郎行家は、紀州新宮の住人であるが、在京中に、頼政と親しくなり、この計画にもあずかったので、まず諸国の動静を視、伊豆にある甥の周囲なども見届けた上でと、去年からの諸国遊歴となったわけである。

九日の夜の伺候は、その報告と共に、最後の密議が、固められたものにちがいなかろう。

次の日、十日の夜。

十郎行家は、ふたたびその山伏すがたを、京の蹴上から近江路へ急がせていた。

美濃、尾張と出て、伊豆へはいり、頼朝の配所にも、わずか一夜しか泊まらなかったが、北条時政とも会して、すぐまた、甲斐、信濃を駈けまわり、さらに、その時は脚をのばして、奥州平泉の館に、藤原秀衡を訪ね、そこに成人している源九郎義経ともひそかに会った。

――が、この旅の間に都では、大きな破綻ができていた。

行家の国元である新宮の武士たちの動きから、以仁王をめぐる計画の全貌が、すっかり平家へ洩れてしまったのである。