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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
紫ばんだ暁闇の中に、大日堂の屋根が高くあった。雲を破った朝陽のまっ赤な光が、その廂、その大柱――また、そこの縁からまわりに、ひしと簇っている甲冑の人影に、燦と、刎ね返っていた。
「やあ。みんな!」
頼朝は、そこに立つと、粗野な大声を出して、呼びかけた。
「早いことだな。わしは、ゆうべに限って、深々と眠ってしまった。――今朝、起されるまで、何も知らないほどに」
と、云って笑った。
実際は、そうでなかったが、そう云ったのである。それと、平常の謹厳を解いて、今朝は非常に磊落な、何でもない集まりのように、自身から粗野にくだけて見せた。
反対に、並居る人々は、彼のすがたを仰ぐと、一斉に向き直って、縁にいた者は大地へ降り、佇んでいた者は端へ寄って、地へひざまずき、
「待ちに待ったる日が参りました。おさしずに従って、かねてさし上げおいた誓紙の如く、各※(二の字点、1-2-22)、伝家の一腰を横たえ、身命も擲って、かくは勢揃いいたしてござります。――わが君にも、疾く疾く、お身じたくを」
と、揃って礼をした。
頼朝は、武者たちが退き開いた間を通って、堂の階をのぼり、大日堂の一隅で、鎧をまとった。