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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

前の夜から眠りもせず、まだ風雨さえひどかった暗いうちに、三里、四里も距てている諸所の在所から馳せつけて来た面々は、そう聞くと、一時は面に色を作して、頼朝、時政のうしろ姿を見送っていたが――次の一瞬には、気抜けしたように、

「ままよ」

「睡くなった」

「その間に、寝ろと御意か」

などと呟き合いながら、堂を中心として、思い思いに、自由な姿にくずれてしまった。

頼朝も、時政も、いったん館へもどって、休息していたが、その日の午の頃まで、お互いに無言のうちに、

(まだか? ……。佐々木の兄弟どもは、まだ来おらぬか)

と、待ちかねていた。

午も過ぎる。

その佐々木の兄弟はおろか、不参の者も、一人として来なかった。――馳せつけて来るほどの者は、当然、時刻もたがえず、すでに来ていた筈であった。

「どう召さるな」

時政は、頼朝へ、最後の肚を質すように云い出した。

「あれへ集まっただけの人数を以て、ともかく、決然とやりますかな。到着の人員は八十五騎という。……たんだ八十五騎じゃが」

「元より最初から烏合の数は望まぬところ。一人だに、一念神仏に通じれば、世をも動かそう。鉄石の心をもつ、武士の八十余騎もおれば、何事か貫けぬことやあろう」