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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
五
「それと、朝がけを取止めたからには、当然、夜討となるが、こよいは三島明神の祭、明十八日は、観世音の潔斎日で、あなたに取って、殺生は好まれますまい。……とすると、十九日にもなるが、そう延引しては、ついに事の洩れる心配もあるが」
――すると、そこへ、
「見えられました。佐々木定綱どの、経高どの以下、四名のご兄弟方、ただ今、門前にお着きでございます」
と、館の侍一、二名が、あわただしく廊を駈けて来て、二人のいる室へどなった。
五
「なに。佐々木の兄弟どもが、今馳せつけて見えたとか」
よほど欣しかったに違いない。頼朝は、聞くとすぐ、告げに来た侍たちと共に、
「どこにおるか。何処に――」
と、大股に廊を急いで駈け出していた。
門内の広間に、疲れきった二頭の痩馬をいたわりながら、四人の兄弟は佇んでいた。
兄の定綱も、次の経高も、三男の盛綱も、末の四郎高綱も、池から這い上がったように、武装した全身、雨と泥にまみれていた。
「オオ」
頼朝が、駈けよると、兄弟たちも等しく、
「おう……」
と、それへひざまずいたまま、しばらくは、ことばもなかった。
(――お前たちのために、大事な今朝の朝討の機を逸したではないか! 何を愚図愚図していたのだ!)