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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
と、償いを心に誓った。
静かに、十七日の午さがりは過ぎて行った。伊豆の山々も、田も、町の人々も、やがて何事が今夜を待っているか、知るものはない。ただ暴風雨のあとの夏雲が、やがて真っ赤に、西の空を焦して来たのみであった。
やや残光が淡れると、陽は落ちて、山ふところは紫の夕闇をこめて来た。ぽつり、ぽつりと物見の者が、北条家の内へ帰って来た。たっぷり昼寝した八十何名かの武者輩は、蜩の声がいっぱいに聞える山の大日堂のまわりに、再び、今朝のように影を集めていた。
大きな宵月が、狩野川の上流からのぼっていた。木々が光る。時政も頼朝も、やがてそれへ登って来た。夏なのに、ふしぎに皆、肌寒さが感じられた。毛穴をよだてているような顔いろは、月のせいばかりではなかった。
「いざ、行こう」
時政は、先に立った。
八十余騎の黒い影はゆるぎ出した。――頼朝は、時政の意見に従って、後に残ることになった。――佐々木三郎盛綱、加藤次景廉、堀藤次親家の三人だけを側において。
彼は、堂の縁へ跳び上がって、駈けてゆく味方の勢を見送っていた。御所内の裏濠へ降りて、そこの吊橋を駈けわたり、宿場へつづく並木道を反対に、山のほうへ向ってゆく一かたまりがやがて見える。