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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「ああっ。……時政かっ?」
なおも、信じられないように、呻いたが、最期と、観念したものか、
「欺かれたっ」
と、無念そうに、歯がみをしながら、長刀を振って、いきなり時政の真っこうへ跳びついて来た。
* * *
頼朝は、山の大日堂の縁に、じっと立ったまま身動きもせず、そこから、山之木郷の空を見ていた。
北条家の館は、しいんとしていた。男という男はあらかた時政について、こよいの人数に加わって行ったので、女たちの局に、微かな灯影が、おののいて見えるだけだった。
後に残った者のほうが、戦に出て行った人々よりも、遥かに、大きな動悸を胸に抱いていた。――一瞬一瞬、身を刻まれるように、
「軍は、勝ちか負けか」
と、心配していた。
味方の負けた場合は?
当然、頼朝は、考えていた。――一死あるまで、と初めはそう覚悟していたが、こよいになってから、
(いやそうでない。逃げきれるまで逃げ退こう。若い生命だ。あだには)
と、思い直したりしていた。
その場合、館に残っている時政の妻や娘などを、どうして救って行こうか、そんな事まで案じられたが、どうしても、