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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
四
ている陣地からもう一つ先の山へ登ってしまった。
そして源氏の陣所の山と自分等の占めた高地とで、ちょうど、挟み撃ちにする形態をとった。
「伊東の入道が着いた」
「備えは成った」
「いで、一揉みに」
と星山の頂きから、やや戦気がうごき出した頃、はるか丸子河の下流のもう海辺に近い辺りの森から、むくむくと黒煙の揚がるのが眺められた。
「やっ。あの火の手は?」
「大庭どのの館の辺りではないか」
「そうだ。大庭どののやしきが焼けている」
立ち騒いでいるところへ、物見の者の駈け上がって来て云うには、三浦一族の者から大祖父と仰がれている三浦大介義明が、八十余歳という高齢の身をひっさげ、先には、子の義澄を頼朝方へ出陣させてあるが、それでもなお、不安として、留守居の身寄りや召使の端まで狩りあつめ、手勢百七、八十の兵を作って、遽に、海ぞい道を駈けつけて丸子河原に陣し、手はじめに大庭景親どのの館を焼き立て、その勢いなかなか侮り難く見えまする――とのことであった。
「え。あの老人が?」
と、平家方の将は、顔を見合せた事だった。その煙よりも、八十余齢という白髪の老武者が、それ程まで、頼朝の挙兵に、熱意をもっている点が疑われたのである。