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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

*

最初から目のかたきに頼朝を狙うていた大庭景親は、二十五日の夕方、一斉に、布令を発し、

(頼朝を匿う者、木戸の警備を怠った者、等しく断罪に処するであろう)

と辻々に高札を立て、およそ諸国へ通じる宿駅は元より、山伝いの小道から、浜辺の一帯に亙るまで眼を光らせて、詮議はいよいよ峻烈を極めているとある。

*

戦は、富士山麓から、甲州方面にまで波及したようである。甲斐の武田、一条などという土豪も、頼朝と呼応して動きかけた形勢が見えたというので、機先を制すべく、駿河の目代橘遠茂だの、俣野景久などの平家が、二十四日、追討に向ったが、途中、富士山麓で野営した晩にどうした事か、彼等の所持していた弓が百何十張りも、野鼠のため喰い切られてしまった。

折も折。

石橋山へ駈けつけると、この地方を通った源氏方の安田義定、工藤景光、同じく小次郎などの手勢とばったり遭遇したので、

(それっ)

と、たちまち戦になったが、一方は飛び道具がみな役に立たないので散々に射立てられ、逃げるをまた追い捲られて、野鼠のおかげで全軍の三分の一しか生きて還らなかったという噂なども、――半ば、面白げに、宿駅の凡下たちに沙汰されている。