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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

(なぜここに、次郎経高は見えぬのか。戦死したか)

との質問に、

(いえ、無事ではいますが、仔細あって、お館には足踏みできぬと、一人どこかへ立ち去りました)

兄弟が答えると、重国は眼をしばだたいて、

(さてこそ、いつぞや頼朝の加勢に行くとて、暇乞いに見えた折、わしが諫めたが、聞き入れずに駈けつけた。それを恥かしゅう思うて参らぬものとみえる)

と、すぐ郎党を四方へやって、次郎経高を尋ねさせた。――かくの如く、平家とよばれ、源氏と称えて、戦場では立ち分れても、血はひとつの国民だった。涙はお互いに持っていた。

三

彼女はもう庭にも立たなかった。二十六、七日の両日は、ほとんど机の前と、御仏の前にじっと坐っていた。

その二十七日の宵である。

「お傷わしや。……さこそ、この幾日の間は」

と、咽びながら、彼女の前にひれ伏した老武士があった。

「おお、あなたは」

彼女は、眼をすえた。それは加藤次景廉の父、景員であった。

「せがれどもは、甲斐へ落ちのびましたが、年老が連れでは、足手纏いになろうと思い、別れて、この走り湯権現の房へ、きょうの明け方隠れこみました」

見れば、そういう景員は、もう髪を剃ろして、法体になっている。