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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

藤九郎盛長は、足のしびれるほど、長い間、常胤の世間ばなしを聞かされた。

都の女から、恋歌をもらったりした事のある若い時代の秘め事まで、おもしろげに云い出すのであった。

「時に」

幾度か、改まって、口を切り出そうとしたが、外らされてしまう。

そのうちに酒肴が出た。

なおいけない。

宴がすすむと、孫たちから、家人の某、某、某――と次々に出て来ては、

「さあ、お寛やかに」

と杯をすすめた。

盛長は、元来が武骨者である。行儀も長持ちはしないので、もう臍をきめた。ままになれと寛いで、大いに飲み出した。

千葉介も、微酔のよい機嫌になって、

「それでこそ、坂東武者よ。どうも、最前はまだ、佐殿のお使いとはうけ取れなかった。――世も革まって、新しい泰平となったらまた、ずいぶん平家衆のみやびもお真似なされじゃが、きのう今日、伊豆を這い出た坂東者や若人が、今から人の顔いろばかり恐れているふうでは、ちと心もとない。……さあ、存分に、こよいは飲んで」

と、鼓など取寄せて、女たちに打たせた。

老人は、何もかも分っている。――あの言葉の様子では、頼朝様の書面も受け取ってくれる気持にちがいない。