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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
その都はまた、秋は秋とて、やれ月の宴とか、管絃の会とか、詩歌三昧などはまだ清遊のほうであった。歌えば淫らだし、語れば恋とか喰い物の事とか、官職のあばき合いとか、人の陰口とか、そんな範囲でしかなかった。
この世は遊ぶためにあって、百姓庶民は自分たちを遊び飽かせる為に生きている――そういう公達の頭には、太政入道が空脛の青年時代に、瀕死の親の医者を迎えるため医師へ行っても来てくれず、薬価の算段に歩いても何処でもすげなく断られ、垢じみた破れ直垂一枚で、冬空の下を、
今に見ろ。
今に見ろ。
と、水ッ洟をすすりながら独り力み泣きに鼻づらを赤くして泣いた事もあった――などというはなしは、誰も清盛から二度三度は聞かされている筈だが、まるで遠い遠い昔ばなしの事でもあるように、ひとりとして身に思い出してみる者もなかった。
そんな孫どもや子息やまた、それにつながる係累の救われない生活ぶりを眺めていると、太政入道は、時にひとり憤ろしくなって、
「いっその事、天譴があらわれて、こんな痴児はみな、海嘯に攫われてしまえ」
と、世の為に憂うることもままあったが、時しもあれ、九月下旬、