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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
という奇異な麻痺であった。
どんな事が起っても驚かないのである。
たとえば。
ひどい旱魃がつづいて、諸国窮民にみち、道にあわれな屍臭が漂い、都下の穀物は暴騰し、巷の顔は干からび、御所の穀倉すら貢物なく、人々はどうなるかと嘆息している――と聞いても彼等は驚いた顔もしない。
困る者は困るばかりに追いこまれてゆき、富有な者は、平家一門の風をまねて、世をも人をも恐れない贅沢ばかりして顧みないと聞いても――彼等はべつに驚かない。
日常、事々に、驚くことを忘れ果てた人々は、この春、源三位頼政が、あんな現実的に、血をもって、世の苦悩を示しても、なお、そう驚きはしなかった。
(それみろ、すぐ片づいてしまったではないか)
と、むしろ騒動の後のいろいろな話題を興がって、しばらくは退屈をなぐさめられたくらいな顔していた。
あらゆる角度から観て、世の中の大きな意志は、少しずつ方向を更えている。それは、巷に歌われる童歌にも、力のない百姓の顔いろにも、何か倦み飽いた顔している市人の眼にも、明らかに、現れつつある事だったが、そんな大勢などには、当然、驚くわけもない。
華美に驚かず、美食に驚かず、果ては、あらゆる自分等の生活のまわりにさえ、良き驚きを失っている神経は、とうとうこの月、木曾義仲が挙兵の報を北方から聞いても、頼朝が西上の急