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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

を東から聞いても――なお依然として、驚かない評定をつづけていたのであった。

「近頃、おかしなうわさを耳にしたぞよ」

その評定も、ともすれば、雑談にばかり流れ易かった。

「また、うわさか、よくいろいろなうわさが飛び出す。頼政にかつがれて、宇治でご最期遂げられた以仁王が、まだ生きていらっしゃるという巷説ではないか」

「そうじゃ。御身もはや耳にされたか。――生きておられるくらいはまだよろしいが、それが、頼朝の陣中にあって、指揮に当っておられるというのじゃ。そのため、何十万の源氏が立ちどころに寄ったというのじゃ。……さも、真しやかによ。アハハハ」

「はははは」

一方で軍議しているかと思えば、一方では笑いどよめいているといった体たらくである。そして早くも、この席が終ったら、こよいは何館の池殿へ寄って酒を飲もうか、管絃して遊ぼうか、そんな事にもう思いの忙しない顔つきも沢山に見えるのであった。

そういう驚かない鷹揚な顔ばかりの中で、老いてもなお、驚く神経を持っているのは、太政入道の清盛だけであった。

彼の側近くまで進み出て、何かしきりと献言している斎藤別当実盛のことばを熱心に聞き取りながら、清盛は、大きく呻いたり、首を振ったり、重盛を亡くしてから老来とみに悄沈していた彼も、にわかに、驚きに甦って、矍鑠と持前の生命力をてかてか