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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

――それが坂東武者の粗鉄のかぶとや鎧に射当って、突き貫るか、刎ね返されるかは、別問題であった。

海道を下って、興津の浜あたりに陣した時、維盛、忠度の二人の大将は、案内者の斎藤別当を間近く呼んでから、真面目に質問した。

「いったい、頼朝の手勢の中には、其方ほどな弓勢の武者が、どれくらいいるのか」

問われた実盛は、世にも情けない顔をした。余りにも認識の足らない大将たちではあると思ったが、その認識不足を補佐することが、多年、恩顧のある入道相国から託された自分の任務であったと思い直して、

「何を仰せられまする。この実盛ごときを、よき者と思し召してか」

と、歯に衣きせず云った。

「――弓は三人張り、五人張りをふつうに引き、一矢に二人三人を射仆す者はいくらもおります。日頃の稽古にも、鎧の二領三領は射貫き、総じてあだ矢を射る者などはおりません。馬は、牧の内から心まかせに逸物を選び取り、朝夕、山林や野を駈けて、鍛えに鍛えた駒ぞろいです。――また、坂東武者の習いとして、父が死ねばとて、子は退かず、子が斃れればとて、親も退かず、一族肉親の屍を踏みこえ踏みこえするほど、一念を固め、いやが上にも強くなるのが持ち前であります」