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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
兼道も、あの家は正暦年間より一度も火災に遭うたこともないめでたい家、住み古したれど、当座のご用に献じたいと申し立ておるとか。……そう致したら工事は幾日で出来あがるな」
「七日は要しましょう」
「七日」
頼朝は、そこへ自分がすぐ住もうとは考えていないのである。一日もはやく妻の政子に、自分の手で造った家と安心を与えてやりたかった。
「続いて、そちへ作事を申しつけておく。速やかにせよ」
その日の黄昏から夜にかけて、もう夥しい馬、牛、車などが徴発され、千人をこえるであろう人夫や兵卒が松明をかざし、材木や石の綱を曳き、山内と大倉郷との道すじは、さながら戦場のような喧騒と赤い光でいぶっていた。
「道をひらけ。下におれ」
そこへ、騎馬徒歩で三十人ほどの侍が、ひとりの婦人を乗せた輿を護って、さしかかって来た。
「何じゃ。何者じゃ」
「どこの女性か」
人夫を指揮している将のひとりが咎めると、
「無礼すな。これに在わすは、御台所の政子の方様である。伊豆の秋戸の里よりお渡りあって、今この鎌倉へお着きなされたところだ」
「……あっ、御台所で」
人々は驚いて牛を退け、馬を曳いて、わらわらと土下座した。