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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
それを醒まして促すと、もう歩くのは嫌だと云う。何と諭しても、
「嫌だ。嫌だ」
と、地べたへ坐って、泣きじゃくッてしまうのである。
やや聞分けもあると、力にしている今若も、まだ八歳だし、生なか物心のあるだけに、乙若よりは恐怖を知っていた。
――明日は、明日は。
と母に賺されて、飢え、寒さ、心細さを怺えて来たのも、ようやく果てしない事と、幼な心にも覚って来たか、両の腕を曲げて顔を埋めこみ、今宵はしゅくしゅく啜り泣いていた。
「もう、どうしょうぞ……?」
子達のそうした姿を眺めると、常磐も坐ってしまいたくなった。ひと思いに、和子たちの喉笛を突き刺し、自分もここに死なんかと思った。
死。
それは絶え間なく襲って来る甘い誘惑であった。今の彼女に、死ほど安らかですぐにも行けそうに思われる所はなかった。そこには、恋しい頭殿もいられるし――
けれど彼女は、
「否!」
と、何の苦もなくそんな迷いを否定し去った。強く生きる気もちをすぐ持ち直した。乏しい母乳を無理に吸われるので、乳くびが疼き痛むたびに、牛若の顔をのぞいても、わが生命を、わが生命とのみは、考えられなかった。
四