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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
禽といえば、ゆうべ喰べこぼした兵糧の米つぶへ、無数の小禽が群れ下りて、刃の光も、武者たちの跫音にも恐がらないすがたが、又なく愛らしい。
危険を冒して、河の深さを偵察に行った者が帰って来ての報告によると、中の洲から西方の主流の一脈が、最も激流で、また最も水深がある。その水幅は五十間足らずであるが、人馬の背丈であるから押し渡るとすれば、ぜひともそこでは、多数の犠牲者を出さねば渡河は難しかろうという。
「なんのそれしきの激流。海ならば知らぬこと、馬を乗り入れて、一度に越えれば」
と、その日のうちにも、渡河戦を決行しようとの議もあったが、数日前に着いている敵でさえ容易に越えて来ないところを見ると、想像以上、流れは早いのかも知れない。――また、それを利して、敵にも計のあることは明らかでもある。
「あっ、来たっ」
夕方、源氏方は、自分たちの頭の上を越えて行く矢の快い羽うなりに、眼をあげて、どよめき出した。
楯まで届かない矢が二、三十本河原に落ちた。さらばと、源氏方からも、五、六騎河べりへ乗り出して、鞍上からキリキリと満を引きしぼって返し矢を送った。
その弓勢に恐れてか、日没と共に、平家の陣はひそとしてしまった。