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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
此家の召使たちへも憚りがあろう。常磐はあわてて乳をふくませ、柴垣の根に身をかがませて待っていたが、そこの窓も他の戸も、盲のように開かなかった。
「今若様よ、今若様よ」
「あい」
「そんな所へ寝てしまうでないと、弟御様を起してよ。――そしての、お許もお睡かろうが、怺えてたも。――今に伯母御さまが家へ上げて下さろうに」
「睡かない。お母あ様、ここは誰のお家」
「母がお親しい身寄りのお方じゃ。よも、素気のうは遊ばすまい。まいちど、門の戸をたたいて訪れて見やい」
今若は、小さい手で、門の戸を手の痛くなるほど打った。
果ては、押したり、垣を揺すって、
「開けてたも。此家のお人。――開けて。開けていのう!」
と、絶叫した。
牛若が、泣きやんだので、常磐も共に、
「もしっ……伯母御さまえ。ご迷惑でも、ここばかりをお力と、辿り着いて参りました。六条の常磐でござりまする。もし、もし……はやお寝みでござりますか」
もう声も涸れかけた。
すると、垣の横側のほうから、のっそりと近づいて来た人影がある。恟ッと、口をつぐんでいると――
「お前どもは、どこの衆か知らんが、むだな事よ。此家の旦那さまは、京都におざるし、お内儀には、遠国へお旅立ちで、わしら、召使の者のほかは、誰もおりはせんがな」