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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
五
家臣や儀礼の形式もなかった。おたがいが親なき子であった。また、逆境から芽生えて、ふしぎにもここまで、無事に成人して来たと思うばかりな――運命の子と運命の子であった。
「よくぞ、訪ねて参られた」
頼朝は、手をさしのべて、義経の手をつかんだ。義経は、欣しさに、顫いていた。
この温み。
この骨肉の手。
それは、生れて初めて知ったものである。母こそちがえ、血は正しくひとつの父からうけている。
「夢にまで。――夢にまで。……幾たび兄君のことを夢みたか知れませぬ。……会いとうござりました」
「わしとても」
頼朝は、はふり落つる涙を、拭いもせず、義経の背をかかえた。
「風のたよりに、遠いうわさに、そちの消息を聞く折々、いつ会う日があろうか、どんな健気に成人しているやらと――」
「同じように、私も、年十六の頃、鞍馬をのがれ、奥州へ落ちて行く途中……ついそこの足柄山を越えながら……すぐ眼のさきに見える伊豆の海を、配所のあたりを、どんなに、恋しく思いながら、振り向き振り向きして通った事か知れませんでした」
義経の声も、甘い嗚咽と、うれし涙と、遠い追憶に、途切れ途切れであった。