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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「…………」
然るに頼朝は冷然と見ていただけで、何を問うてやろうともしない。――側にいた義経は、いるにも堪えないここちがして、何とか兄に取りなしてやりたい程に思ったが、頼朝の面には、むしろ何か心地よげな苦笑すらあるのではないかと疑われるほど無情を誇示していた。
「……遠い、遠いことではございますが、滝口家の祖は、八幡様(義家)にも、廷尉禅室様(為義)にも、人なみの忠勤は励んだものでございまする。――彼子が、このたび、大庭景親に徒党して、殿へ、抵抗いたしたのは、まったく、一時の魔がさしたのでござりまする。……ほん気な仕様とは、彼子を生んだこの母にも信じられませぬ。……どうぞ、お慈悲に――お情けに助けて賜わりませ。こ、この通りでござりまする」
老母は、懸命に、涙と闘いながらしゃべり出した。――その声は、上わずッたり、かすれたり、顫えたり、人の子の母でなければさけび得ない真実のものであった。
「実平」
頼朝は眼を反らして、老母の横にうずくまっている彼へ、至極、平静なことばで吩咐けた。
「いつぞや、そちの手許へ預けおいた鎧があったな。あの鎧を、これへ持って参れ。