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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

――所詮、その威勢は、路傍になど佇んで見ていられるものではなかったから、吉次はあわてて佐賀山へ上ってしまった。

佐賀山の下の海辺道まで頼朝が来かかると、それを出迎えに出ていた郎従五十人ばかりは、一斉に馬を下りて、砂上に平伏した。

「ご老人、ご老人ッ」

突然、三浦義連が、こう誰にも聞えるような大声で、注意をした。

「わしの事か」

上総介広常は、馬の上から見まわした。

すべての将士が、下馬して、砂上に平伏しているのに、彼のみは馬を下りずに胸も反らしていた。

「お年のせいか。なぜ下馬なさらん。ご前でござるぞ」

義連が重ねてたしなめると、老人は、彼の叱咤にも負けない声を出して、

「広常、まだ年を老らねばこそ、かように致しておるのでござる。三浦殿とは、家風がちがい、われらに於いては、父子三代のあいだ、東国の武門として、まだ下馬の礼はいたした例がござらぬ。――馬上の武士は馬上のまま礼をいたすが、わが家においては、最上の礼儀でござる」

そう云って、彼のみはとうとう馬を下りなかった。

頼朝は、苦笑して通った。

こういう一徹な曲げない風は、老人ばかりでなく、彼の擁す兵ばらには皆あった。