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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

喉を鳴らして、鳥羽蔵は、杯を手から措かずに、

「何せい、おらの仕えているご主君がよ、目先の見えぬ馬鹿な戦をおっぱじめ、たんだ一日の間に、六条のお館は灰だし、一門は散々だし、義朝様始め、その後、縁につながる奴等は、毎日のように河原で首斬られるし――いやもう生きた空はなかった。なぜ初めから平家の縁故へ、奉公しなかったかと思ったが今さら及ぶ事ではなかったし」

日頃、牛いじりしているせいでもあるまいが、牛の如く横着面の男である。姪の常磐の縁故から、こんな邸を持ったり、太刀の一つも帯びる身になった事などは、前世のように忘れ果てていた。

「そう云えばの」

似た者夫婦の牛の妻が、思い出したように告げた。

「六条の姪が訪ねて見えたぞよ」

「えっ、常磐が」

遽に、眼をすえて、

「いつ? ……。いつだ」

「ゆうべ晩くであったがの」

「で。そ、そして――何処にいるのか」

「家の内へ入れなどしてなろうか。固く戸を閉てて追い払うた」

「追い払ったと」

「縁のつながりだけに、なおさら怖ろしい。留守というて、召使に追わせたのじゃ」

「ばかっ」

「……?」

「たわけ」

「何でいのう」

「ええい、智慧のねえ奴だ。