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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

せっかく黄金の蔓をひいて来た福運を、初春早々、追い払う阿呆があるか。飛んでもねえ馬鹿者ぞろいだ」

罵りながら、もう起って、たちまち脱ぎすてた衣裳や太刀を纏い直し、

「ここを追われて行ったからには、大和の龍門にいる身寄りしか、他に頼ってゆく家はない筈だ。……乳呑みを抱いていたか、幼子を手に曳いていたか。よしっ、まだ遠くへは落ちまい」

ひどい意気込みなのだ。彼の妻でさえ、その肚は覚れても、呆っ気にとられた程である。

深草村から大和路の方へ、彼は急ぎに急いでいた。追いつけずに見失う事よりも、無力な常磐母子が、苦もなく人手に落ちることを惧れてである。

鳥羽蔵の懸命が、ついに、常磐の姿を見出したのは、その夜も過ぎて翌日の午近くであった。

路傍から少し横に這入った杉林の中の氏神の縁に、彼女は、疲れ果てた二児をなだめ、牛若に母乳を与えていたところだった。

「おう、いたか。……姪よ、無事でいてくれたか」

鳥羽蔵は、そこへ駈け寄るなり、さもさも胸いっぱいの情愛を洩らすように呼びかけ、そして、無心に母の側で遊んでいた乙若を、

「和子様も、ござったの」

と、いきなり抱き上げた。