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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

六

きゃっ――と乙若は叫ぶし、常磐もその不意にびッくりして、身でも斬られたような声を出した。

六

驚いたのは、悲鳴をあげた母子よりも、かえって鳥羽蔵のほうだった。

「黙りなされ、黙りなされ。なんでそんなにお泣きやるか。この小父さんは、和子さまたちのお味方じゃ。和子さまたちの父君、義朝様のご家来じゃがな」

と、乙若を手から放し、母の膝へ返して、

「其女もまた、俺のすがたを見て、なぜそのように顫くのだ」

と、宥めた。

常磐は、ようやく胸の動悸がおさまったように、

「墨染の伯父さまでございましたか。わたくしはまた、六波羅の手先か、この辺の野武士でも来て、やにわに和子さまを奪り上げたかと、気も萎えてしもうたのでございました」

「そうか。――いや無理もない、その子連れで、これまで落ちて来るには、さだめし容易な事ではなかったろう。何とまあ、傷ましい……」

鳥羽蔵は、そら涙を拭くまねをして、洟をすすりながら、

「さてさて、嘆かわしいとも無念とも云いようはない。世も末とはこの事か。ご一門の後を追って、俺も追腹を切ろうかと一度は思ったが、何としても、何としても其女や幼い和子さま方のお身が気がかりでな……」