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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

平家をうち亡ぼして、父義朝をはじめ亡き源家の人々のうらみを雪いで下さらぬか。また、一鎌倉の繁栄や祭り事などさし措いて、旗挙げの初めにひろく云い触らされたように、この国土全体の為に、旗を中原にすすめ、民みなが望んでいる新しい世態をお築きにならないのか。……それを思い、それを憂いたりなどしながら、兄や嫂の近頃のお生活方だの、御家人どもが争って、宏壮な居館を建てたり、飲んだり遊び明したり、私闘に日を暮したりしている有様をながめると、わしの心は楽しまぬ。怏々と胸が鬱いでくる。――為に、つい兄へも嫂へも、ここ半年余り、嫌な顔しかお見せしないようであった」

「仰っしゃった事がございますか。鎌倉殿へ直々に」

「そういうお話をする折はない。昼は昼で、公務にお忙しいし、夜は夜で」

「御台所の政子様におひかれでございましょうな」

うっかり吉次が口を辷らすと、義経はいやな顔して口をつぐんだ。

――と、いうのは、つい先頃のこと、頼朝がまだ配所にいた時分、側近くおいていた亀の前という女性を、その後、家臣の某の家へそっと隠しておいた事を、政子の母、牧の方が知ってしまった。

牧の方は、娘可愛さに、ついそれを政子の耳へ入れたので、ふたりの愛には、当然、大きな亀裂がはいった。