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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

六

政子は、聡明なので、世のつねの妻女のように、徒らに泣き狂ったり醜い嫉妬は口走らなかったが、一応、夫婦のあいだにはかなり派手な口論が交わされ、さしもの頼朝も彼女の正論には抗し難く、以後、彼の進退は甚だしく、御台所の監視下にあるという――下々にまで隠れないうわさを吉次も聞いていたからであった。

六

林の外に、駒のいななきが聞えた。義経は、にわかに立って、

「吉次。また会おう」

と、去りかけた。

吉次はあわてた。徒らに時をうつしたが、彼はまだ、云おうとする何も云っていない気がした。

「あっ。もうしばし……」

「きょうは忙しい。折も折、わしの姿が見えぬなどと、義経の心を知らぬ人々は、立ち騒いでおろうも知れぬ」

「では、たった一言」

と、吉次は彼の袖をとらえて、よほど思いきった顔をして云った。

「あなた様は、いつまでも、鎌倉殿の下について、そうしておいで遊ばすおつもりですか」

「……そうしてとは?」

「でも、ご不平でしょう。この鎌倉の現状には」

「わしの不平は、世のうごきに対する大きな不平なのだ。……兄鎌倉殿への不平ではない、そちは混同している」

「いません!」

「うるさい。そちは義経に、なにを云おうとするのだ」