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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
論功行賞の折、行家様へは領地をやらなかったとかで、鎌倉殿を見かぎって、木曾殿のほうへ奔ってしまったとやら」
「……何でもない! そんな小さい私事はみな塵芥だ。世を建直す大きな波へ浮び沈む塵芥よ。……目をくれている要もない」
「まだ仰っしゃるか、九郎様。――あなたも今に、その塵芥のひとつと見なされますぞよ」
「…………」
「悪いことは申しません。臍を固めてお置きなさい。元々、諸国の源氏は、鎌倉殿を中心に、一体として起ったかというに、決してそうではありません。――ただ春が来たので大地が芽を出しただけです。源三位頼政殿も、十郎行家殿も、木曾殿も、鎌倉殿とは根はべつに生えたもので、何の一致もありますまい」
「離せっ」
義経は、いきなり彼の手を袂から払って、
「根はひとつだ! そちのような商人には、武士の心根はわからぬ。義経は鎌倉へ、利を占めに駈けつけて来たのではない。死に場所をこそ求めに来たのだ。いかに、この身をよく死なばやと……」
云いすてると、義経は、蝉のごとく、木の間の小道を駈け去っていた。
栄華散落
一
それから、わずか二年め。
養和の年号は、一年で更わったので、寿永二年になる。