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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
察するところ、主上に供奉して先発した宗盛の一行が、維盛の安否を憂えて、侍たちを見届けによこしたのであろう。
「ここじゃ。ここにおいでられる――」
暗い寝殿のあたりで、人声がした。近づいてみると、広縁から階の下まで、大勢の人影が、寂として、うずくまっている。
赤い夜空には、いちめん火の粉が舞っている、天体が大きくうごいているように見える。じっと、うつろな眼を上げたまま誰も彼もだまっていた。一つとして、生きているような顔はない。
さがしに来た侍どもは、その気はいに、何かハッとしたように、あわてて庭へ下りた。そして畏る畏る一族の左少将有盛、侍従忠房その他の公達や郎党のかたまっているそばへ這いすすんで、そっと訊ねた。
「いかがなされましたか。もう洛中も、あのとおりで、残っているお館もありませぬが」
すると、ひとりの公達が、寝殿の奥を指さして、
「……お名残りがつきぬのじゃ」
と、囁いた。
維盛卿の北の方は、故中御門大納言のお女で、美人の聞えたかい麗人であった。まだ幼い和子たちもあった。そのため一しお別離のかなしみは深く、北の方のすすり泣く声が、さっきから綿々と洩れ聞えて、人々の腸をかきむしっていたのである。