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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

七

「…………」

「不愍や、あわれや、他人でも人事とは思えぬに、常磐の前は一体どこにいるのか、生きてはおらぬのか、生きているなら母御を見殺しにもすまいに――などと、都の噂は寄れば触ればじゃ」

「…………」

「え。どうする考えだな」

「…………」

「常磐」

「…………」

「常。……あっ、常磐っ。おいっ、おいっ、どうした」

鳥羽蔵は、うろたえ出した。

聞くうちに顔の血の気も失せて、紙より白く見えたと思うと、常磐は、眼をふさぎ唇をかんで社の縁へ横に仆れてしまったのであった。

その胸の下になって、牛若は泣き脅えるし、今若、乙若のふたりも、母よ母よと、抱きすがって声も涸るるばかりだった。

七

九条の女院は、以前、常磐が雑仕女をしていた頃、仕えていた御所である。

そこへ、彼女と幼い子たちは、大和路から連れ戻されて来た。

伯父の鳥羽蔵の言によれば、自分が自首して出ないかぎり、六波羅に捕まっている老母は、日ごと夜ごと、地獄の責苦にひとしい拷問にかけられていようとある。――そう聞くだに、今は身も世もなく、最後の覚悟をきめたのであった。

「所詮は、のがれぬところと、悟ったとみえ、常磐の前が、伯父とかいう者に伴われて、御所の内へ、お縋りに来たそうな」