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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

四日も、何事もなかった。

「――四日は、清盛の忌日である。敵もさだめし仏事供養をしてあろうに」

と、思いやって猶予したかの如くであったが、五日になるとまた、

「きょうは、悪日であるから」

などと云いふらし、幾日かをわざと過して、一ノ谷に楯籠っている平家方の全神経を、まず不安と迷いに疲らせた。

讒者

一

「梶原どのが見廻っておいでになりました」

義経は、そう聞いて、

「景時か」

と、いやな顔をした。

中軍の陣幕は、冬木立のなかに張りめぐらされてある。

その日も、何の行動も起さず、ここの林に駐屯していたので、焚火の煙の立ちのぼる空に、鵙や鵯の啼くのも静かであった。

「おつつがもなくて、まずは祝着」

と、景時は、義経のすがたを見ると、皮肉な語気でまず云った。頭を下げるにも、武骨というよりは、ぞんざいなふうがあった。

景時は、軍監として、こんどの西上には、総軍のうえに、重きをなしていた。

彼は、自分の口から常に、

(蒲殿も、九郎殿も、何分大将としてはお若いので、そちがよく奉行せよと、特に鎌倉殿から仰せつけられて参った)

と、人にも語っていた。

そのことばの裏には、暗に、鎌倉殿の寵を誇っているふうも見える。