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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

主体を保たん為には、手脚も断つ」

だが、こうした言を、彼もまったく苦悶なしには吐けなかった。自身の矛盾に気づかぬほどその理性も偏頗ではない。

世の衆望は今、にわかに、義経を称えているが、まだ二十七歳にしてあの才略ある異母弟の偉さを、誰より早くまたふかく見抜いていたのは頼朝であった。

――が、感嘆は、恐怖にまで変ってきた。たえず自分との比較の対象にした。小心なと、反省もしてみるが、無視するには、義経の天質が偉きすぎる。

わけて法皇の寵遇はいよいよ厚く、義経をご信用と聞く。頼朝の心は穏やかであり得ない。

ところへ、讒者の画策も手伝うように、両者のあいだには種々な事件が頻発した。宿命といおうか不測に起ってくる。

でも、義経は、なお兄を信じて疑わず、

「やがて、よいご消息も」

と、便りを待ちぬいていたのである。

それにこたえた頼朝の沙汰は、同月二十九日に発しられた彼への「勘当」であった。

「おまちがいだ! 何者かの讒言だ」

義経は、火となった。情に悶え泣いた。直接、兄に会って云い解けばと――関東へ急ぎ下った。

が、頼朝は、彼の鎌倉に入るを許さない。

義経は酒匂で止められた。