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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

で、父忠盛の死後も、自分には継母にあたる池の禅尼であったが、仕える事は、真の母と変りもなかった。――ああいう所は感心なお人であると、館の召使にいたるまで、その点は敬服していた。

「清盛です。今帰りました。……どうも近頃は忙しくて」

彼は、禅尼の待っている室へはいると、非常にていねいな辞儀をした。威容などはちっとも振らない、昔ながらの息子であった。

「お、ほ」

禅尼は、恐縮する。

あまりに手軽いので。

けれど悪い気もちでなかった。義理の子ながら良い子をもった倖せを思うのである。

老いても、なお美しい眼元を細めながら、

「おつかれであろ」

と、慰めた。

「いや、体の忙しさは、病身な父などとちがい、清盛は頑健ですから、何ともいたしませんが、どうも分らずやの公卿を相手に、半日、朝に上っておりますと、頭が悪くなりそうで」

「癇のお強い参議殿ではあると、いつぞやも誰かいうておりました」

「宮中で呶鳴りましたからね」

「せぬがよい事でしょう」

「自分でも戒めていますが、時々は」

と、笑って、

「時に、何かご用ですか」

「折入っての」

「……はて。母御前から折入ってと申しますと」

「義朝の子のことじゃが」