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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
四
「義朝の」
「先つ頃、尾張の頼盛が家人の弥兵衛宗清という侍が、美濃路で捕えてきた可憐しい和子がありましたの」
「ムム。義朝の三男、右兵衛佐頼朝のことですか」
「そうじゃ」
「それを……?」
「斬れとの仰せなそうじゃが、慈悲じゃ、助けてあげて下さるまいか」
清盛は、すぐかぶりを振った。親に遠慮はないという膠のなさである。
「嫌です。いけません!」
四
「いけませんか」
「成りません」
「どうしても」
「母御前などが、お口をさし出す事ではありませぬ」
「…………」
「…………」
禅尼と清盛とは、それなり口をつぐんでしまう。気まずげな沈黙がいつまでもつづく。
中壺の紅梅が、一、二輪ほころびかけている。眼を反らしていた禅尼は、ふと、涙ぐんで、
「ぜひもない事よ。……故殿が世においで遊ばさぬ今ではのう」
ため息と共に呟いた。
清盛は、むっと色をなして、
「また、おひがみですか。父の忠盛が生きていたとて同じです。いや清盛としては、父君がすでにご他界だけに、なおさら、あなたのお頼みとあれば、たとえ逆さま事でも、肯いて上げたいつもりでいますが、義朝の子の処分などは、由々しい問題です。伏見中納言とか越後中将とか、あんな連中なら何十人助けてくれたからとて大事はありません。