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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
――が、総じて、弓取の子というものは、性根の恐いものです」
「和殿も、弓取の子ではなかったか。きょうの人の身、あすのわが身」
「だからです。豹の子には、日が来れば、きっと牙が生えるんです。元来、われわれ武門の血は、ついきのうまで、野放しに育って来た人間ですからな。こうして繧繝縁のうえに坐っていても、野に帰れば、たちまち牙を研ぎ爪をみがく性質の甦えってくる者なのです。――その点、平安朝や天平の文化に育てられて来た公卿たちとは、同じ国土の人間でも、血の鍛錬がちがいます」
「そのような事を、尼は嘆くのではありません」
「では、なんですか」
「後世の怖ろしさが思われるのじゃ」
「また。仏法の因果ばなしですか」
「和殿にもはや、沢山なお子があろうに」
「武門の子等ですから、武門のならわしに育てます」
「とはいえ、もし和殿のお子が、今の義朝の子のように成り召されたら、親として、どのように思わるるか」
「あはははは」
「笑い事ではおざるまいが。昨日ともいえぬ、世の移りを眺めたら」
「母御前よ」
「なんじゃ」
「あちらの女どもの屋へ渡らせて、双六か扇投げでもなされては如何。盛姫に催馬楽を見しょうとて、町より白拍子を呼び集め、賑やかに遊んでおるらしいが」