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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「なにをしていらっしゃいましたか。今日は――」

「お借りした唐の白居易の詩書だの、司馬遷の史記だのを読んでいました」

「史記と、詩書と、どちらが面白うございますか、どちらがお好きですか」

「詩文はつまりません」

「では、李白や白居易の詩を読むよりも、支那の治乱興亡の書いてある史記などのほうがお心にかないますか」

「え……」

うなずきかけたが、宗清の眸を見て、急に頼朝は口をにごした。

「好きといっても、そんなにも好きではありませんが」

「じゃあ、何がいちばん、読んでお心をうごかされますか」

「…………」

しばらくは答えない。

聡明そうな眼を、つぶらに見はったまま、考えているふうである。室内は香のにおいに湿っていて仄暗いが、頼朝のその眸には、戸外の春の天地が、湖のようにいっぱいに映っていた。

「――お経文です」

やがて、宗清の問いに、あどけない顔して、答えるのであった。

「仮名がきのお経文がありましたら、こんどお貸しくださいまし」

「はて、稚いのに、どうしてお経文などをお好み遊ばすか」

「亡き母者人に連れられて、嵯峨の清涼寺へよう詣りました。中河の上人とも、お心やすうござります。