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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

三

先頃、黒谷へ行って、法然房源空という若い坊さまのはなしも聴いたりしました」

「それで……」

「え、それで、いつのまにか、お経文を解いたおはなしを聴くのが、いちばん好きになりました」

と、うつ向きながら――

「わたくし……。もしかして、首斬られずに、生きていられたら、叡山か、清涼寺か、あんなお寺へはいって、仏さまに仕えていたいと思います。住むところなら、お寺がいちばん好きです」

と、云った。

宗清は、室の一隅にある小机に目をとめた。位牌とてはないが、一碗の水を供えてある。可憐しくも、囚われの身にありながら、父や兄たちの霊に、朝暮の回向をしているものとみえる――

まだ十四歳の童子の言を、いちいち奥底ありげに疑って聞くのは、大人のわるい癖であり人間の邪智というものであるまいか。宗清は反省してみるのだった。――いや、頼朝のすがたに対していると、いつのまにか、そう考え直させられてしまうのだった。

三

「佐殿。お目なぐさみにと、馬洗い池のそばに咲いていたのを、一枝、携えて帰りました。どこぞへ挿して置かれませ」

宗清は、縁の端から、それを持ち直して来て、枝ぶりを示しながら、頼朝の手へわたした。