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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「ひと筆、御書をおしるし賜わりますまいか」

「文か」

「はい。小松殿へ」

禅尼は、眉をひらいて、

「そなたも、そう思うか。尼もこの上は、小松殿のお力をかりるしかないと考えていたが」

「宗清が、ひと走り、お使いに立ちまする」

禅尼はすぐ手紙をかいた。

それを携えて宗清は、程近い小松殿――清盛の長子重盛の館を訪れた。そして禅尼の大慈悲心のあるところを重盛に会ってよく伝えた。いや、宗清自身が胸いッぱい持っている頼朝への同情もみな禅尼のことばとして、重盛には伝えられた。

文を見て、重盛は、

「承知した」

と、云った。

そう難しくない顔に見えた。

「何とぞ、お力をもちまして」

と宗清はつい、わが子の生命の瀬戸際のように、懸命に額をすりつけて縋った。――が、自分は末輩の端でも、平家の武士であることに気づくと、余り熱意を表にあらわしては、かえって頼朝の不為だし、この身も妙に疑われてはと、

「もし助命の儀、六波羅様にお聞き入れない時は、この十三日の打首の太刀取は、てまえが望んで、勤める所存でござります」

などと云い紛らわして、門を辞したが、さてまた、小松殿の門を出てからは、

「あんなよけいな事は、云わずもがなであった。