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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
春暁
一
……ではさっそくにも、泉殿へ」
「ひとつ孝行したの」
「ああ、寔によい朝でございました」
重盛も清々しかった。父に対してこんな崇高なものを肉親の情以外に、胸に抱いたことはなかった。
さっそくにと、欣んで起ちかける重盛へ、
「あ。それから」
と、清盛はこれも至って簡単に云ってのけた。
「ついでの事に問罪所のほうへ自首して出た常磐御前も放してやれ。ただ子たちはみな男だからな、寺入り申しつけるがいい。――乳のみ児は、すぐもぎ離したら泣き死のう。百日ほども母の手に猶予を与え、鞍馬の山へでも上げてしまえ」
春暁
一
ゆうべ頼朝は、宗清からそれとなく、最期の覚悟を諭されていた。
「さあという時、恥のないように、いつでも死ねる心を、お胸にすえておくのが肝腎です。あなたが世の笑いものとなる事は、源氏の恥のみではありません。侍というもの全体の笑いぐさですからね」
「たいがい、大丈夫に、死ねると思っております。――こうして掌さえ合せれば」
常のような素直さで頼朝は云う。思いのほか動揺も見えないので、宗清は、いくらか安んじた。
頼朝は、今朝も起きると、幽室にぽつねんと坐って、何やら考えている顔していた。