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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
情けねえ、ヘッ、情けねえや」
わざとらしく眼をこするのは、涙をふくしぐさのつもりで、
「十年も二十年も、会わねえってわけじゃなし――いえね、あれからまもなく、駒形高麗屋敷の尺取り横町へ、おたずねしていったんでごぜエやすが、イヤ、おどろきましたね。貸家札がぺったりと……」
「何を言うてるんだか、おまえさんの話はさっぱりわからないよ。なるほどわたしは江戸者だが、そのなんとか横町とか駒形なんかには、縁もゆかりもない方角ちがい、江戸というよりも在方に近い、ひどく不粋な四谷のはずれのものなのさ」
「オウ、姐さん、ふざけちゃいけねえ、この与の公を前にして、そんなしらを切るたア、お藤姐さんもあんまりだ」
と与吉は、このまに儀作が通りすぎてくれればいいと思うから、ながびく問答をかえっていいことに、懸命に声をひそめて、
「コウ、人違いでござんすとは言わせませんや、姐御。たてから見たって横から見たって、お藤姐さんはお藤姐さんだ。ナア、またお道楽に、あの尺取り虫の踊り子を供に連れてサ、こうして気保養がてら、街道筋に草鞋をはいてでござんすか。おうら山吹きの御身分でござい。実アね、あっしもあれから……ハアテね、何からどう話してよいやら――」