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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

「殿のおめしだ。すぐまいれ」

「あ、そう?」

お藤は軽く煙管をしまって、

「キリキリ立アてというところだね、オホホホ」

江戸のこけ猿騒動に、なんらかの点でこの女が、重大な関係を持っているに相違ないと思うから、一同はひしとお藤をとりまいて、御前へ出たのです。

あせりきっている対馬守……。

頑丈なからだをもたせかけると、蒔絵の脇息がギシときしむ。

イケしゃあしゃアと前へすわったお藤へ、ジロリとするどい眼をくれた殿様、

「江戸からか?」

「在郷うまれと見えますかね? フン」

かたわらの侍たちが、たけりだって、

「コラ、女! どなた様のおん前だと思う。気をつけて口をきかぬと、ウヌ、手は見せぬぞ」

「よいよい、おもしろそうなやつじゃ。うっちゃっておけ……そこで女、貴様にきくが、逃げたと申すつれの男は、何者かの?」

「サア、……神奈川で顔が合って、のんきに東海道をのぼろうと、マア、話しあいがついていっしょになっただけでね、どこの馬の骨だか、ハイ、あたしゃいっこうに――」

「知らぬと申すか」

じっとしばらく、何事か考えていた対馬守、急にニッコリして、

「ナア女、しばらく芝居をしてみる気はないかの? 余のもとに」