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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

先夫とのあいだに。

その先夫のことは、さておき。

いったん気持が、わが子のもとへはしったお蓮様は、だいたいが思いたつと同時に、じっとしていられない性質。

そっと居間へ帰って、いくらかのお鳥目を帯のあいだへはさむがはやいか、庭下駄のまま植えこみをぬって、ひそかに横手のくぐりから、夜更けの妻恋坂を立ちいでました。

子供というのは、どこにいる? お蓮様は、いったいどこへゆくのであろう?

「もう今年は、七つになっているはず……同じ駕籠にあたしが抱いてどこかへ連れ出したら、どんなに喜ぶことだろう。このおなじ江戸に住みながら、往き来はおろか、たよりひとつしなかった罪を、お父様にとっくり詫びなければならない……」

口のなかにつぶやきながら、坂の上下を見わたすと、折りよく通りかかった一丁の夜駕籠。

お蓮様は白い手をあげて、それを呼びとめた。

「ヘエ、どこへゆきますんで?」

と駕籠屋がきいたが、ここで、場面はぐると大きく回転して、

「ヘエ、どこへゆきますんで?」

と溝板を鳴らして、この作爺さんの家へ駈け込んで来たのは、おもての角に住んでいるこのかいわいの口きき役、例の石屋の金さん、石金さんだ。